銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 ふたり共、本当にそれでいいの?

 せっかく再会できたのに、また別れ別れになってしまっていいの?

 このまま人間の世界に留まったら、ノームだってどうなるか分からない。

「我は砂漠に戻る道を選び、ノームは残る道を選んだ。ならばここでの別れは受け入れるべき」

「イフリート……」

「雫よ、我はノームの心も、お前の心も良く理解する」

 あたしはイフリートを見上げた。

 精悍な、勇気付けようとしてくれている、その力強い微笑を。

「良く、とても良く心情を理解する。我が友である雫よ」

 結ばれたあたしの唇が震えた。

 うっと声が詰まって、涙がぶわりと両目に盛り上がる。

 我が友。そう言ってくれるの?

 その言葉の嬉しさに耐え切れず、啜り泣きの声が溢れ出た。

「雫……」

 イフリートに抱えられているモネグロスが、かすれた声を出した。

「雫、雫……」

 何かをしゃべろうとしているけれど、口がうまく回らなくて言葉にならない。

 やっと開かれた目が、あたしに向かって懸命に訴えている。

 心配とか、気遣いとか、言葉にならないたくさんの思いを。

 あたしは、頼りなく動くモネグロスの指先を強く握った。

「モネグロス、ありがとう。ありがとう」

 あたし、あなたと出会えて本当に良かった。

 感謝してるよ。でもなんの力にもなれなくてごめんなさい。

 無事に砂漠へ帰れますように。

 せめてあなたの静かな眠りと、その後の無事な再生を願っているよ。

 あたしも、懸命にモネグロスに目で伝えた。

 涙で、とても言葉にならなかったから。
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