銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「お別れね。モネグロス……」

 ようやくそれだけ言うと、モネグロスは小刻みに首を横に振った。

 行くな、と言っている。一緒に砂漠へ戻ろうと言ってくれている。

「ありがとう。でもダメなのよ」

 モネグロスは諦めたように目を閉じた。青ざめた頬に、透明な涙がハラハラと零れ落ちる。

 相変わらず泣き虫ね。そしてどこまでも純粋で優しい。

 人間にこんな酷い目に遭わされながら、その人間の元へ行こうとしているあたしの為に、涙を流す。

 あなたは、まさしく本物の神よ。

 あたしは、モネグロスの頬に落ちる涙を指で拭った。

 透明な涙はツルリと指を伝って滑り、あたしの手の中にコロンと落ちる。

 そしてそのまま、クリスタルのように涙型の粒に固まった。

 澄み切った純粋な涙の雫を、あたしは手の中にしっかりと握り締める。

 イフリートがモネグロスを改めて抱きかかえ、ジンの方へと向かって歩き出した。

 ずっと、あたしに背を向けたままのジンの元へ。

 あたしに見えるのはもう、その背中と銀色の髪だけ。

 あなたは二度とこちらを見ない。振り返らない。

 それでも、分かる。感じる。あなたは、あたしの事を見つめている。

 だって風が……あたしを包んでいるから。

 ほら、風が髪を撫で、頬を撫でる。

 指先に触れる、覚えのある感触。

 星空の下、焚き火の側でふたり、もどかしげに指を絡め見詰め合った。

 ……なんて愛しい情景。身を包む切ない感触。

 次々と流れる涙に濡れる頬を、乾かすように風が吹く。
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