銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「ジン―! ジン―! ジン―!」

 両の拳で地面を思い切り叩き付ける。

「戻ってきてよ――!!」

 届かない事を知りながら、いいえ、知っているからこそ叫び続ける。

 言えなかった本音を。愛しているからこそ、言わなかった本音を。

 それでもいい。それでいい。

 だってあたしはちゃんと伝えた。

 一番伝えなければならない言葉だけは、伝えた。

 ジン。あたしあなたを愛してる。

 間違いなく伝わった。あなたに。

 だから、それで良かったんだと、納得するしかない。

 滅び行く人間の元へ戻る事を選んだあたしは、納得するしかないんだ。

 自分の望む事の代償を、払わねばならないんだ。

 選んだ事に、自分自身に言い訳はできないのだから。

 地面に崩れ、ヒィヒィと子どものように泣き続けるあたしは、ふと人の気配を感じる。

 グシャグシャの顔を上げた先には……

「ヴァ、ニス……?」

 夜の闇に紛れるように、黒い衣装のヴァニスが立っていた。

 彼は労わるような、哀れむような表情であたしに、

「終わったのか?」

 そう、問いかけた。

「終わったなら、それでいい。余はお前を迎えに来たのだ。雫」

 ヴァニスは崩れ落ちたあたしの体を立ち上がらせ、力強く抱きしめる。

 完全に脱力してしまったあたしの全身を支えるように。
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