銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「ヴァニス、どうして……?」

「精霊の長が余に知らせたのだ。あの精霊達が庭に来ていると」

「知ってた……の?」

「うむ」

 体にまったく力が入らない。

 全身が弛緩してしまって、カクンとヴァニスの胸に身を預ける。

 なんだか、もう、疲れてしまった……。

 ジンは砂漠へ帰ってしまった。

 ここは、人間の居るべき場所だから。

 だから、この庭にはあたしとヴァニスふたりきり。

 いずれ……滅び行くさだめの……。

「長が言っていた。雫はどこへも行かぬと。だから時間を与えた。決別の為の時間を」

「そう、だったの」

「余とて、それぐらいの情けはある」

 情け……。

 その言葉は虚しく響く。

 なんの情けだと言うのか。精霊は、ジンは、人間を何とも思っていないのに。

「しょせん……」

「なんだ?」

「しょせん人間、と言われてしまったの……」

 苦しい思いが甦り、胸を締め付ける。

 その痛みに反応するように涙がボロボロと頬を伝った。

「そう、我らは人間だ。そして彼らは、しょせん精霊なのだ」
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