銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 こんな体になってしまって、無事に元の世界に帰れたとして、この力はどうなるの?
 あたしは、一生このままなの?

 そんな不安に慄くあたしの気持ちを知りもせず、風の精霊が暢気に話しかけてくる。

「おぉ、やれば出来るじゃないか半人間」
「……」
「ぼやっとするな半人間。さあ、虹の橋を渡るぞ」
「……」
「おいどうした? 半人間」
「……ちょっと」
「なんだ半人間」
「その半人間っていうの、やめてくれない!?」

 その言葉、今のあたしには辛すぎるの。

 あんたがどんなつもりで言ってるのか知らないけど、本っ気でやめて欲しい。

 理解して欲しいとか、思い遣って欲しいとか、そんな高度な人間的感情を期待してはいないわ。
 あんたなんかに。

 ただ、あんたも仮にも知的生命体なら、最低限の配慮ぐらいはしてちょうだい。
 せめて名前で呼んで。

「あたしにはね、相原 雫(あいはら しずく)って名前があるのよ」

「あぁ、そういえば人間には、それぞれ個別の呼び名があるそうだな」

「え? そりゃあるわよ。当然でしょ?」

「あれだけの個体数に、個別の名か。膨大だな。理解出来ない」

「……そういえば、あんたの名前は?」

「風の精霊だ」

「そうじゃなくって、あんた個人の名前よ」

「オレ達精霊に、そんな概念はない。オレ以外にもたくさんの風の精霊がいるが、皆、『風の精霊』さ」

 へぇ、そうなんだ。
 精霊達には、それぞれの名前がないんだ。
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