銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「仕事をしなくていい? なんで?」

「おしごとしなくても、ごはんが食べられるからいいんだって」

「うちも同じこと言ってたよ」

「うちも。せいれいがいるから、しごとしなくていいんだって」

 ……あぁそうか、そういう事か!

 今まで人間達は、食べる為に、生活する為に仕事をしてきた。

 でもその生活が一変した。

 仕事をしなくても、肉や魚や野菜、必要品も何もかも、精霊への命令ひとつで全部手に入るんだ。

 働かなくても不自由無く暮らしていける状態なんだわ。

 だから国民は、働く必要がなくなってしまった。

「あ、でも、学校はないの? お勉強は?」

「せんせい達、学校にこないもん」

「来てたせんせいもいたけど、どんどん減って、もうだれもこないよ」

 学校まで運営されなくなっちゃったの!?

 そ、それってちょっと、あんまり良い事とは言えないと思うんだけど。

 子どもの教育に携わる人間が、『仕事しなくても食べられるから』って理由で、職務放棄するのはマズイでしょ。

 学校がそんな状態じゃ、役所関係とかどうなってるのかしら?

 城内の主な業務にトラブルは見受けられなかったけど、でも、城から離れた末端の役人たちは?

 その職員が全員職務放棄しちゃったら、社会生活はどうなるの?

 ……どうも嫌な感じがする。

 これって確実に、人間の良くない側面が出てきてるわよね?

 今まで苦労してきた分、楽な方法を知ると、一気にそっちに傾いてしまうのは道理だ。

 それは人間に限った事じゃなく、生き物全部がそうだけど、自然界で環境が変化するには、膨大な時間がかかる。

 それを今回人間は、一足飛びに手に入れてしまった。

 順応してうまく対応し、社会システムが変化できるだけの時間が無かったんだ。
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