銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 それじゃひょっとして、あたしを半人間呼ばわりするのも悪意からじゃないのかしら?

 概念が無いんじゃ、『おい、人間』って呼ぶのも無理ないかも。

「それにしても自分の名前がないなんて、不便よね? なんか寂しくない?」

「いったいなにが寂しいんだ? まったく人間の感性は理解できないな」

「……ほんとね。お互いに」

 異世界に住む、別の種族同士。
 まったく文化も生活体系も違う生き物。

 自分側の尺度だけで、相手を無礼だと決め付けるのは良くないのかも。

 同じ地球の生物同士だって、理解し合うのは難しいんだもの。

 ロクな理由も無いのに、毎朝あたしに吠え立ててくる近所のペキニーズ。

 あれはたしかに、あたしとは生涯理解し合えない存在だけど。

 ペキニーズと同類に扱ったら、失礼よねやっぱり。

 幸い言葉は通じるんだし、話し合って歩み寄る姿勢を見せた方が良いのかも。

「雫ってのは、滴り落ちる水滴のことか?」

「え? あぁ、そうよ。両親がつけてくれたの」

「両親。水滴……」

「可愛い名前でしょ? 気に入っているの」

 あぁ、そんなこと言っても分からないか。
 名前の概念が無いんじゃね。

「そうだな。良い意味だと思う」

「え?」

「乾いた大地に落ちる、最初の一滴。そんな勇気と意味のある存在になって欲しいと願ったんだろう」

「……」

「図らずもその通りになったな、お前は。良い両親だ。お前の両親は」

 風の精霊が、初めて笑った。
 ふわりと包み込む風のような、爽やかな笑顔だった。
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