銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 こういう状況で改めて考えると、あの情緒不安定さは気にかかるわ。

「王の妹姫ですね。そのひとにおねがいできませんか?」

「ヴァニスに会えるようにって?」

 マティルダちゃんにそんな権限があるとは思えないけど、でも、そうね。

 あたしひとりがキーキー騒ぐより、ふたり揃って要求した方がいいかもね。

 マティルダちゃんは家族なんだし、あたしよりも要求は通りやすいかもしれない。

「ノーム、マティルダちゃんの部屋へ行ってみましょう」

 通路を進み、階段をのぼっていく。

 その間、注意して周囲の人物や様子を確認してみた。

 見たところ目立った変化もトラブルもなく、まだ城内は落ち着いているみたいね。

 だけど、なにか違う。

 城下町で感じたような違和感を、ほんの僅かに感じ取る。

 何がどうと明確に指摘はできないけど、やっぱり空気が……城全体を包み込む空気が、変わっている気がする。

「しずくさん、なにかおかしくないですか?」

「ノームも感じる?」

「はい」

 落ち着きのない、意識しなければ特に感じないほどの微量な、良くない何か。

 そういった形の見えないものが、ひたひたと城全体を包み込んでいる気がする。

 ジンとの別れや、これからの事で頭が一杯で、今までまったく気がつかなかった。

 何かが着実にこの城を蝕んでいることに。
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