銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「しずくさん?」
「シッ。静かに」

 何か隠してる。あの侍女。

 やましい事がありますって顔に書いてあるわ。あんな態度じゃバレバレよ。嘘つくのがヘタね。

 案のじょう、待つほども無く侍女は動き出した。

 扉が開かれ、顔を出した侍女がキョロキョロと周囲を確認する。

 そして部屋を出て、そそくさとどこかへ移動し始めた彼女の後を、あたしは慎重につけ始めた。

 階段の所で侍女はこちらを振り返り、あたしは慌てて壁に隠れる。

 しばらくその場に立ち止まっていた侍女が再び歩き始めて、あたしも再び後をつける。

 少し歩いて、またすぐ侍女は振り返り、あたしも慌てて大きな壺の影に身を潜めた。

 侍女はしつこいほどにあちこちを見回し、少し歩いてはまた見回す。

 その怯えたような様子に、あたしの不信感はますます大きくなった。

 絶対に何かある。何か隠してる。

 でもあんなにキョロキョロ警戒されたんじゃ、後をつけられないわ。

 このままじゃすぐ見つかっちゃう。どうしよう。

 するとノームが、自分の小さな手の平にフウッ!っと息を吹きかけた。

 手の平の上で何かが僅かにキラリと光って、フワリと広がる。

「ノーム?」

「今わたしの土を、あのひとの足元に散らしました。これで足跡がのこります。人間にはみえませんが、わたしならどこまでも跡をたどれます」

「えらいノーム! でかしたわ!」

 あたしはそのまま壺の陰に身を隠して息を潜め、侍女がどんどん離れて行って、その姿が見えなくなるのを待った。

 そして完全に姿が見えなくなってから、安心して後を追い始める。
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