銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 侍女はあちこち複雑な通路を進んでいるらしい。

 というよりも、わざと複雑な道順で歩いているんだわ。これ。

 行きつ戻りつ、そう簡単には行き先を悟られないようにしている。

 そんなにまでして何を隠そうとしているの? マティルダちゃんはどうしているの?

 まさかあの子の身に、何かよからぬ事でも起きているんじゃないでしょうね?

 急ぎ足で進むうちに、ふと気が付いて辺りを見渡す。

「ねぇノーム、ここって」

「はい。前にきたことがあるところですよね?」

 ノームがあたしの考えに同意した。

 そうよ、ここ、前にも来た事がある。

 一番最初にこの城に侵入した時に、ノームと一緒に、アグアさんの気配を探して見つけた通路だわ。

 ここでヴァニスとバッタリ鉢合わせたんだ。

 ひょっとしたら、この先にアグアさんがいるのかもしれない。アグアさんの居場所をついに見つけられるかもしれない!

 ……でも、どうしてマティルダちゃん付きの侍女が、同じ方向に進んでいるの?

 この奇妙な符号はなんなのかしら?

 期待と不安。相反する感覚に胸のざわめきは増すばかりだ。

 そして他にも増してくるものがある。

 気持ち、悪い。まるで風邪のひき始めのように寒気がして、背中がゾワゾワしている。

 これってあの時にも感じた感覚だ。

 あの時は、ホラーな雰囲気にビビッているせいだと思い込んでいたけれど、違う。そうじゃない。

 この感覚は、今この城を覆っている空気と同じものだわ。
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