銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 通路を進むにつれて悪寒はどんどん強まってくる。

 軽い吐き気もあって、口元を手で覆いながら頑張って歩いていくうちに、奥の行き止まりに扉が見えてきた。

 恐る恐る扉を開くと、螺旋階段が頭上まで続いている。

 ここって塔だわ。ああ、城の外からも見えていた、ひと際高い塔か。

「しずくさん、足跡はこのかいだんをのぼっています」

「う……やっぱり?」

 具合悪くてかなりダルいんだけど、この状態でこの階段をのぼらなきゃならないのか。

 でもまさかここで引き返すわけにもいかず、あたしは足に力を込めて階段をのぼり始めた。

 一段一段のぼる毎に、気持ち悪い空気が濃くなるのを感じる。

 背筋も胸もゾワゾワする。すごく気持ち悪い。螺旋のグルグルのせいで眩暈がする。

 なんだか、この嫌な空気に無理矢理引っ張り上げられてる気がする。

 たまらず途中で足を止め、座り込んで荒い息を吐いた。

「し、しずくさん? だいじょうぶですか?」

「えぇ。ノームは平気なの?」

「わたしも気持ちわるいですけど。でもしずくさんほどではないみたいです」

 上を見上げたら、どうやらてっぺんまでもうすぐ。

 あと少しで階段が終わるわ。もう少し。もう少し。

 額に浮かんだ汗を手の甲で拭いて立ち上がり、自分を叱咤激励しつつ足を進める。

頑張れあたし! もうちょっとで目的地に到着よ! さぁ諦めちゃダメ!

 ……なんだか小学校の時の登山の体験学習みたい。

 うっぷ、気持ち悪。あと少し。はぁ、はぁ、はぁ……!

 背筋を大粒の汗が伝って落ちる。

 肩を大きく上下させながら、あたしはなんとか階段をのぼり切った。
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