銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 あたしは、思わず目を見開いた。

 口元を覆っていた両手がダラリと垂れる。

 我を忘れて、目の前の光景を凝視した。

 天井から吊り下げられる繭の中に、精霊?

 そうだ。あれは間違いなく精霊だわ。初めて会う精霊だけど。

 しかもすごい数。いったい繭が何個あるの? この広い室内中を巨大な白い繭が埋め尽くしている。

 ぐにぐにビクビク痙攣するような動きの精霊達が、透ける繭の糸を通してハッキリ確認できた。

 その奇妙さと不気味さに、あたしは恐怖心を覚えて後ずさる。

「ね、ねぇノーム」

「……」

「これって精霊の誕生シーンなの?」

「……」

「精霊って繭から誕生するものだったの?」

 仮にも生命の誕生シーンなら感動的なはずなんだけど、お世辞にもそうは見えない。思えない。

 生命の誕生っていうよりも、もうこれはハッキリとエイリアンの繁殖シーンよ。

 出会っちゃいけない未知との遭遇だわ。

「そ、んな……」

 大きな両目を極限まで見開いたノームが、ようやく声を絞り出した。

「そんな……」

「ねぇノームってば。精霊って繭から生まれるの?」

「そんなわけないじゃないですか!!」

 ノームはあたしの胸元で金切り声を張り上げる。

「みんな!? これはいったいなんなの!? どういうことなの!?」

 ノームの叫び声に、室内の澱んだ空気が震える。

 その振動に反応するように、全ての繭が……いいえ、その中の精霊達が痙攣し始めた。

―― ビクビクビクゥッ!!

 繭からわずかに覗いた精霊達の顔が、明らかに苦痛に歪み硬直する。
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