銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 虹の中に身を浸すと、ふわりと軽く体が浮き上がる。

 虹自体はまるで煙のように頼りない存在感なのに、確かに感じるこの感触は、浮力。
 水圧と浮力だ。

 あたしは虹の中から片手を出して、まじまじと眺めてみた。

 やっぱり濡れてない。水の中に入っている感覚そのものなのに、どうなっているんだろう?

―― ユラリ……。

 虹の中で体が揺れた。
 見えない力に引っ張られるように、あたしの体が上へ向かって虹の中を移動する。

「え? え? え?」

 サアァッと風を切る勢いで虹の橋を流されて、どんどん体が浮上して、どんどん空が近づいてくる。

 に、虹のジェットコースター!?
 虹のウォータースライダー!?

 うわあ!? あたし、本当に虹の橋を渡っている!
 てか、流されてる!
 空を、空中を流されてるーーー!!

「きゃあ! きゃあぁーー!?」
「騒ぐな。うるさい」

 隣で一緒に流されている風の精霊が、うんざりしたように言った。

「だって怖いー! きゃああ!」

「何が怖いんだよ。飛んでるだけだろ?」

「だから怖いのよ! 普通は人間って、空は飛ばないもんなのよ!」

「ハァ、これだから人間ってのは」

「きゃあ! 落ちる! きゃああ!」

「落ちないから騒ぐな! 半人間!」

 結構なスピードに髪の毛が巻き上げられる。

 両手で髪を押さえつつ地上を見下ろすと、黄色い砂の大地がずいぶんと下に見えた。

 果てなく輝く滑らかな砂丘の美しさに、思わず叫ぶのを忘れて見入ってしまう。
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