銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
―― ズルリ……。

 笑う番人の背後から、何かの塊りが近づいてきた。

 途端に凄まじい臭いが漂ってきて、あたしは両手で鼻と口を覆った。

 あまりの強烈な悪臭に、ノームが激しく咳き込む。

 衝撃のあまりすっかり失念してたけど、室内に充満している悪臭の原因は、近寄ってくるこの塊りが悪臭の元なんだわ!

 堪らない! は、吐く!

 窓! 誰か窓開けて空気の入れ替えして!

 あ、ここって窓がないんだったわ!

 塊りはどんどんこちらに近づいてきて、あたしは思わず数歩、後ろに下がって逃げた。

 その塊りはドロドロした黒と、灰色と、ぬらりとした質感の緑色や赤色が混じった、泥のような感じだった。

 移動するたび、そのズルズルのヘドロにまみれた縦長の物体から、べしゃりべしゃりと汚れた液体が床に落ちる。

 汚い! 臭い! 気持ち悪い!

 なにこの汚れた塊りは!? 汚染されきった川の底から、ヘドロを掬い上げて塊りにしたみたい!

 く、臭いぃ! 嫌あ! こっち来ないでよ!

「さあ、ここへ来るがよい」

 番人がヘドロの塊りに向かって手を差し伸べて、あたしは目を剥いた。

 ちょっと!? そんなもんに手招きしないでよ!

 余計なことしないで! シッポ振って駆け寄ってきたりしたらどうすんのよ!?

「それって、あんたのペットなの!? そうじゃないなら、いや、そうであってもこっちに呼ばないで!」

「お前達の方が、これとは親しかろう」

 番人はそう言って、さらに手を差し伸べた。

「さあ、来るが良い。アグアよ」
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