銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「うそです! そんなのうそです!」

「事実だ。土の精霊よ、本当はお前も分かっているのであろう? これが間違いなくアグアである事を、お前も気付いたのであろう?」

「うそ! そ……んな……」

 番人の言葉を肯定するように、ノームの叫び声が小さくなり、やがて掻き消えた。

 あたしの目は、張り付いたように塊りから離れない。

 これがアグア。全ての精霊の中で最も美しいと讃えられた、輝く存在。

 砂漠を潤し、命を支え、オアシスや神の船に心から慕われ、崇められ、モネグロスから永遠の愛を誓われたアグア。

 この世で初めて、神からの愛と名を捧げられた、唯一の精霊。

 美しいアグア。

 気高きアグア。

 穢れ無き清廉なる水の精霊アグアが……。

「穢れたのだ。心の底まで。もはやアグアに、かつての輝きは片鱗も残ってはおらぬ」

「どうして!?」

「なぜこんな姿になったのですか!?」

 あたしとノームが、ノドから搾り出すような声を出した。

 その声に反応するかのように、塊りが……アグアさんがピクリと動いた。

 そして、おそらく顔に該当する部分が、ゆっくりと上を向く。

 汚いヘドロに完全に覆われてしまっている顔が。

「なぜ、と問うか? その答えは単純だ」

 番人の手がスッと上がり、その指先があたしに向けられる。

「異世界の人間よ。お前の存在によってアグアは穢れたのだ」

「あたし!? あたしが原因!?」

 汚れきった顔の中で、ギロリと何かが蠢いた。

 濁った水色の目玉が、あたしを刺す様に鋭く睨みつけている。
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