銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「幽閉されたアグアは、愛する者の姿を見たいと望んだ」

 あまりに思いがけない展開に呆然とするあたしに、番人が囁きかける。

「最初は喜んでいたのだ。だが……」

 見慣れぬ女の姿を初めて見た時、アグアの輝きが微かに翳った。

 その女が自分と同じ水の力を持つ者と知り、美しい髪の艶が消えた。

 愛する者とその女の距離が縮まるにつれ、皮膚がくすんだ。

 モネグロスの手が、その女の手を握る。

 見つめ合い、真剣に語り合う。

 甘えるように肩にもたれ、強く抱きしめる。

 アグアは、それを見ていた。

 じっとじっと、物も言わずに、毎日毎日食いつくように見続けていた。

 そして徐々に徐々に、アグアの輝きは消え去り、その身は汚れていった。

 清流のようだった全身は醜く濁り、透き通るようだった髪も目も、黒く澱んでいった。

 澱み、濁り、沈殿し、腐り、虫が湧き、悪臭を放つ。

 アグアの清らかさが消えるにつれ、どす黒い憎悪は膨らみ続ける。

 固く誓った永遠の愛を裏切られ、愛する者を奪った女への、果ての無い憎しみが。

「ち、違うわ! それは誤解よ!」

 あたしとモネグロスは、そんなやましい関係なんかじゃないわ!

 そ、そりゃこの映像だけを見たら、勘違いするのも無理ないかもしれないけど!

 これって映像のみで、音声は全然聞こえてないし!

 もし会話が聞こえていたら、絶対にそんな誤解なんて生まれない。

 だってモネグロスは、いつだってアグアさんの事を想っていた。

 彼の気持ちは変わっていない。決して変わらないわ。

 あぁ、会話さえ聞こえていたら! 会話、さえ……?

 ……あ……

「あんた! わざと会話を聞かせなかったのね!?」
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