銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「多少時間はかかるが、これで無事に神殿へ行けるはずだ」

 風の精霊が眺める方向を見ても、虹の彼方はあてどない。

 遥かに続く砂漠の先へと、虹の橋も伸びている。

 砂漠の神殿。砂漠の神。
 そこへ行く事によって何が起きるんだろう。

 この精霊達の目的は何なんだろう。
 一際厳しい表情の精霊を見ながら、あたしの胸には不安が渦巻く。

 あたしは、無事に元の世界へ帰れるんだろうか。

 問題を抱えているらしいこの世界。狂った王が治める世界。

 力の衰えた神に会ったところで、事態は好転するんだろうか。

 あたしは愛を失い、自分の世界を見限った。

 命を捨てようとした時、別の世界の扉が開いてしまった。

 その世界であたしは、今度は生き延びようとしている。再び元の世界へ帰りたいと望んでいる。

 元の世界の人間達に対して、絶望している気持ちは今も変わらない。

 でもだからといって、『じゃあ好都合。こっちの世界に骨を埋めよう』とは思えない。

 見知らぬ異世界なんかよりも、やっぱり元の世界に戻りたい。

 望むあたしに、この世界は何をもたらすのだろう。

 この出会いは何を意味するんだろう。

 あたしの人生は、これからどうなっていくんだろう。

 双子の太陽。
 輝く月と星々。
 体を包み込む虹の橋。
 果てなく続く砂の大地。

 美しい銀色の精霊。
 我が身の中の、水の力。

 全ての有りえない現実に戸惑いながら、あたしはひたすら、七色の光の中をただ流されていくだけだった……。



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