銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
決壊
 アグアさんが奇声を発しながら、あたしの頭を思い切り床に叩きつけた。

 繰り返し叩き付けられるたび、アグアさんの腕からヘドロがビシャビシャ飛び散る。

「痛い!痛い、痛い! やめてえ!」

―― ビュルルッ!

 悲鳴をあげるあたしの胸元から、何本もの蔓が勢い良く飛び出し、アグアさんの腕を絡め取る。

「アグア! もうやめてください!」

 ノームの小さな手の平から太い蔓が延び、アグアさんの腕をしっかりと押さえ込んでいた。

「おねがいです! 目をさまして!」

「ギャアアァァァッ!!」

 アグアさんが激しく頭を左右に振った。

 力づくで蔓を腕から剥ぎ取ろうとするけれど、ノームの蔓はギッチリと強く絡みついている。

「あなたのオアシスの植物達が、救いをまっているんです!」

「グアァァ―――ッ!!」

「アグア! 聞いてください!」

「ギャアアァ―――!!」

 アグアさんがノームに向かって、ギョロリと目を剥いて威嚇した。

 深い悪意と、強い敵意と、本能だけが彼女を突き動かしている。

 これではもう、彼女はアグアさんとは呼べない。モネグロスが愛したアグアさんは、消えてしまった。

 誰の言葉も、どんな思いも、願いも、もう彼女には届かない。
< 440 / 618 >

この作品をシェア

pagetop