銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 弱々しい声を頼りに、あたしは必死になってあちこちのガレキの下を手当たり次第に探した。

 どこ!? どこから聞こえてくる!?

「たすけて。おねがい……」

 ついに声のする場所を見つけたあたしの顔から、一気に血の気が引いた。

 塔の端ギリギリ、少女の白い手が、懸命にしがみ付いている。

 マティルダちゃんが、今にも塔から落下しそうに宙ぶらりんにぶら下がっていた。

 彼女のドレスの裾が、風にあおられ揺らめいているのを見て、あたしはそのまま卒倒しそうになる。

「雫さま……たすけて……」

「マ、マティルダちゃん、今行くわ! 絶対に手を放しちゃだめよ!」

 夢中で駆け寄ろうとしたあたしの頬に、ポツンと何かが当たった。

 手で拭ってみると、指先が黒く染まっている。

 なんだ?と思う間もなく、ポツンポツンと続けざまにそれは頬に当たり、足元が点々と黒く染まった。

―― サアァァ――

 不気味に雨音に、思わず空を見上げた。

 黒い雨。

 いつの間にか空を覆っていた暗い色の雲から、真っ黒な雨が降っている。

 瞬く間に雨足は強くなり、崩れかけた塔を、黒い雨が激しく打ち付けていた。

 この雨、おかしい。変だわ。

 黒い色をしているだけでも充分変だけど、やたらとドロリとしている。

 濃度が濃いというか、なんだかヌメヌメとして気持ち悪い。

 気分が悪いわ。寒気が、する……。

 吐き気をもよおす悪寒と共に、なぜか体からどんどん力が抜けていく。

 足元は一面真っ黒に染まり、あたし自身も頭からドロドロの雨に黒く染まっていく。

 まるで夜のように暗くなってしまった空間に、重々しい雷鳴が轟き、青白い稲光が走る。

 それを合図のように、雨は一気に勢いを増し豪雨となった。

 天から叩きつけられる激しい雨音が四方に充満する。
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