銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 気持ち、悪い。力が、入らない……。

 ついに足からガクンと力が抜けて、あたしはその場にうずくまった。

 頭に、背中に、痛いほどの雨が降り注ぐ。

 真っ黒な雨が猛烈に床を叩き、周囲の全てを染め上げ煙らせる。

「ククク・・・」

 雨の中、忍び笑いが聞こえた。

 それは愉悦に満ちた、恍惚の笑い声。

 アグアさんが両手を広げて黒い雨に身をさらし、ますます色濃く暗黒に染まっていく。

 彼女が降らせてるんだ。この雨を。

「ギュアアァァァーー!」

 狂った歓喜の叫びをアグアさんが発した。

 続く閃光。雷鳴。すさまじいスコール。

 あたしの体にはもう、まったくと言っていいほど力が入らなくなってしまっている。

 きっとこの暗黒の雨に力を奪われているんだ。

 この異様な感覚は、城内を汚染していた、あの空気と同じ。

 あの穢れた空気を濃縮したものが、この雨なんだ。

「たすけて。手が、手が……!」

「マティルダちゃん!?」

 いけない! こうしていられないわ! 早くあの子を助けなきゃ!

「雫さま、手が、雨で手が滑るの!」

 あたしは立ち上がろうとして、また膝からガクッと崩れてしまった。

 どうしても立てない。四つん這いになって進もうとしても、関節から力が抜けていく。

 ぬかるんだ黒い床に、あたしは潰れたカエルのようにビシャリと突っ伏した。

「雫さま! 早く来て雫さまぁ!」

 歯を食いしばって顔を上げた。

 立てないなら、このまま進む! 待っててマティルダちゃん! 頑張って!

 あたしはヌメヌメした床を、ほふく前進しながらズルズル進んだ。
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