銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「アグアさん……。マティルダちゃん、死んだわ」

「ククク」

「雨で手が滑って、落ちていったの」

「ウフ、ウクク……」

「なにが……」

「クフフフ……」

「なにがそんなにおかしいのよ!!」

 怒鳴り声を上げるあたしの姿を見て、アグアさんはさらに嬉しそうに笑った。

 本当に、彼女は嬉しいんだ。楽しいんだ。

 あたしが苦しむ姿を見るのが、嬉しくてたまらないんだ。

 その喜びを得るためなら……

 マティルダちゃんの死なんて、どうでもいい事なんだ。


 アグアさん。

 あなたのその気持ち、あたしには分かる。

 憎い相手を不幸に貶めるためならば、どんな事でもやるつもりだった。

 何を犠牲にしても、かまわないと思った。

 でも、それでも……。

「今すぐ笑うのをやめなさい!」

 それでもあたしは、こんな事を許容するわけにはいかない!

 この事態を黙って見過ごすわけにはいかない! 絶対に!!

「目を覚ましなさい! そして自分のしている事をよく見るのよ!」

 自分のした事は自分の意思。

 自分自身に言い訳は通用しない。

 そうだ。今ここで、この全ての状況を『しかたがない』と諦めたら、それはあたしが自分で選んだ意思になる。

 受け入れて、納得したことになるんだ。

 受け入れないわ。絶対に。

 こんなの誰が受け入れるもんですか!

 目を逸らしたりしない! 後になって『どうしてあの時』なんて後悔、絶対にしない!

 始祖の神の導きで、あたしはこの世界に呼ばれた?

 ……いいえ、冗談じゃないわ。

「この旅はもう、あたし自身が選んだ旅なのよ!」
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