銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 まさに、生ける屍。

 生気が失せているとか、そういった比喩表現じゃない。

 本当に、死体と見紛うばかりの姿だった。

 皮膚は完全に爛れて、醜く変色している。

 肉が所々露見していて、その肉も、嫌な色味をして溶けかかっている。

 目の周りは落ち窪み、眼球ばかりが飛び出るように、ギョロリとあたしを睨んでいた。

 口からは意味を成さない唸りが漏れて、それでも、瞳の色だけはかろうじて水色を保っている。

 これがアグア。

 この世界で最も美しいと讃えられた、水の精霊。

 その、なれの果て。

 憎悪に身を委ねた者の……。

「グウオォォ……」

「アグア、さん……」

 こんな……
 こんな状態に、こんな姿に成り果てて……。

「あなたはもう、全てに絶望してしまったのね」

 騙され、信じた愛を疑って。

 帰る場所も、待っていてくれる者も失って。

 ただ憎悪と復讐だけが、今の自分の支え。

 それでも何ひとつ救われず、苦しみは増すばかり。

 辛くて、苦しくて、悲しくて、持てる物全てを喪失して喚き、足掻き、吠えて吠えて吠えて。

「グ……ア、アァ……」

 アグアさんの両目から涙が零れた。

 どす黒いドロリとした涙が、滑り落ちる事もなく顔を汚す。

 その様を見ながら、あたしも涙を流した。

 彼女はまるで、鏡に映った自分の姿だ。

 だからこそ、あたしが言わなければならない。

「あなたは道を誤った。決して言い訳は出来ない」
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