銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 再び落下する体に感じる浮遊感。

 悲鳴すら出ずに全身から汗が噴き出す。頭の中は真っ白だった。

 ヒュゥゥ……と、体の横を通り過ぎていく風の音が聞こえる。

 その風が汗を冷やし、恐怖に凍える四肢を冷やした。

 ただひたすら、恐れだけがあたしの全てを支配して、何も考えられない。

 この風を感じる事しかできない。


 あぁ……風。

 風の音。

 風、風が……。


―― ドスンッ!!

 不意に、体に強い衝撃を感じて、同時に絶望も感じた。

 あぁ、ついに落ち……

 落ち……

 …………

 あれ? 落ちて、ない?

 あたしの体は宙に浮いていた。

 いや、正確に言うと、何かがあたしの体を支えていた。

 あたしの背中と脚を抱える手。

 顔の横に見える肩。

 そして、風にたなびく銀の……


 銀の髪?


 あたしは、それを見上げた。

 そして、自分の目を疑った。

 確かに見えるその存在を、信じられない思いで見つめる。


 不思議な質感の肌の色。

 研ぎ澄まされた鋭い刃物のような表情。

 そして……そして……

 ムーンストーンに微粒子の銀の粉を混ぜたような、そんな不思議な輝きを放つ、銀色の瞳。

「……ジン?」

やっとのことで、あたしは彼の名前を呟いた。
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