銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「雫から一歩離れるごとに、逆に雫に引き寄せられる。離れれば離れるほど、強烈に」

「……」

「そのうち、一歩も前へ進めなくなった。どうにもこうにもお手上げで。だから、観念して認めた」

「認めた? 何を?」

「オレが雫から離れる事は不可能だと」

 あたしは、言葉も無くジンを見つめた。

 ジンが話してくれる事を、ひと言漏らさず聞き取れるように。

「オレは雫が城に潜入している間も、ずっと雫の事ばかり考えていた……」


 雫から離れようと遠ざかっても、頭の中は雫の事で一杯だ。

 結局、無理なんだ。

 距離も、事情も、どんな事をしても、オレの頭と体の中から雫を消し去るなんて、不可能なんだ。

 それはなぜか?

 その理由を考えて、オレはある事に気がついた。


「オレはまだ、言っていなかったんだ」

「何を?」

「オレは雫を愛してる」

「……!」

「それが一番大事な事だった。この複雑に空回りばかりする世界の中で、唯一、道行く先の光のように」


 オレは精霊で。

 雫は人間で。

 そしてこの世界は、犠牲と代償と苦しみに満ちていて、不可能ばかりが実在する。

 それでも、それでも……

 それを百も承知で、血を吐くほどに傷付いても。

 それでも、オレが雫を愛する事は変えられない。

 オレは雫を愛している。

 お前は暗黒の世界の中で、彼方に見える、ただひとつの光のようだ。

 たとえ何があっても、求める事をやめられない。

 それほどに、それほどまでにもう……オレは雫を愛しているんだ。
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