銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 あたし達の表情から良くない気配を察したらしく、ジンが真剣な表情で答えを促した。

 あたしは意を決し、ポツリポツリと事情を説明し始める。

 精霊の長の正体。

 アグアさんの身に降りかかった悲劇。

 今の世界の現状。

 あたしとノームで、できるだけ詳しく手短に説明した。

 真剣だったジンの表情が、どんどん深刻になっていく。

「やはりこの黒い雨は、アグアの雨だったのか」

「ジン、気付いてたの?」

「ほんの僅かだが、雨からアグアを感じた。でもまさか、あのアグアが」

 ジンの表情は暗くて、苦しそうだった。

 彼にとってもアグアさんは砂漠の盟友。モネグロス同様に、かけがえの無い仲間だ。

 その身に起こった悲劇は、さぞかし認め難い現実だろうと思う。

「長はいったい何を考えているんだ。オレ達を裏切っていたのか?」

「そもそも、自分は精霊達の仲間とは違うって言っていたわ」

「じぶんのことを、世界の番人だともいっていました」

「番人? 何をどんな理由で? 意味がまったく分からない」

 ジンは頭を振って嘆いた。

 本当に、訳がわからないくらいの突然の現状の変化だ。

 あたしもノームも、この目で見ても実感が乏しい。

 ただ分かっているのは、番人にとってこの状況は、突然でもなんでもないという事。

「番人はゆっくりと時間をかけて、この状況を密かに作り出していたんだと思うわ」

 そう。人間や精霊や神達の目をかいくぐり、密かに着々と準備を整えていた。

「始祖の神とは、いったい何なんだ?」

「わからない。番人は答えなかったわ」

「オレ達が知っている伝説とは、違う事実があるという事なのか……」

「誰か……そこにいるのか……?」

 あたし達の会話を遮るように、廊下の向こうから小さな声が聞こえた。

 この声は……!

「ヴァニス!?」
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