銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 髪を怒りに逆立たせ、真っ赤な両目を燃え上がらせて、イフリートが仁王立ちしている。

「人間よ! 我が友に何をするか!?」

 叫ぶ口からは、紅蓮の炎がチラチラと吐き出される。

「ましてや、王はお前達の仲間! それを裏切るとは!」

 ビリビリとイフリートの顔に筋が盛り上がり、険しさが増していく。

「己が身の愚劣さを思い知るべし!!」

 憤怒の表情、激しい雄叫び。途端に、周りの温度がドンっと急上昇した。

 吠えたイフリートの全身から、無数の炎が鋭い弓矢のように放たれる。

 それらが意思を持っているかのように、兵士達に残らず襲い掛かった。

 次々と炎に包まれる兵士達は悲鳴をあげ、踊るように暴れて床を転げ回る。

 火の粉が飛び、炎は広がり、いろんな物が焼ける臭いがして、場は悲惨さが極まった。

 ……あち! あち! かなりあっつい!

「熱いわ! イフリート!」

 皮膚がジリジリする熱さに堪りかね、あたしは叫んだ。

 でもイフリートはすでに忘我の領域だった。

 またキレたのね!? 制御不能になってる! 

 せっかく助かったと思ったけれど、これってかなりヤバイんじゃないの!?

 あぁもう、非常事態が非常事態を呼んで、わけが分からない!

 火の粉が四方八方に飛び散り、こっちまで貰い火しそうだ。

 温度は上昇し続け、周囲は赤い炎と熱気が充満する。

 呼吸が苦しい。熱い、熱い。兵士達は泣き叫んで救いを求めている。

「しずくさん! なんとかしないと、あの人たちが!」

「た、確かにこのままじゃ、イフリートが皆殺しにしちゃうわ!」

「そんな! イフリートにそんな事させられないです!」
< 485 / 618 >

この作品をシェア

pagetop