銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 ヴァニスは、マティルダちゃんの髪飾りを強く握り締めて立ち上がった。

 しっかりと上向いたその目には、いつも通りの決然とした意志の強さが漲っている。

「余は、人間の王である!」

 勇ましくも堂々と宣言する姿。

 そうよヴァニス! あなたが人間の王! あなたは誇り高き国王陛下だわ!

「あなた達、何をしているのです? 早くこの謀反人を捕らえなさい」

 ロッテンマイヤーさんが兵士達に向かってそう言い放った。

 ちょびンが目に見えてギクリとして、あたふたと叫びだす。

「お、お前達! 報酬は欲しくないのか!? いくらでも……!」

「おだまりなさい」

 ピシャリ!と音が聞こえそうなぐらい、ロッテンマイヤーさんがその叫びをぶった切る。

「あなたには、人間としての尊厳はないのですか?」

 いつもの、冷徹な鉄壁の無表情。

 抑揚の無い、ゆっくりとしたドスの効いた声。

 お局上等!なオーラが、ずおぉぉっと全身から燃え立つように湧き上がる。

 ちょびンや兵士達はもちろん、ジンやイフリートまでギョッと顔を見合わせた。

「恥を知るがいい。……この、タヌキが」

 ……ぶっ!

 ロッテンマイヤーさんの捨てゼリフに、あたしは思わず吹き出してしまった。

 こっちの世界でも、胡散臭いオヤジはタヌキオヤジなのね!

 お局様のオーラに当てられた兵士達は、目が覚めたようにちょびンを捕らえた。

 モネグロスの雨のおかげで、皆の意識が正常に働くようになったらしい。

 ヴァニスもすっかり回復しているし、さあ、これでやっと番人の後を追えるわ!

「そういえば、あやつはどこへ行ったのだ?」

 ヴァニスが首を傾げた。
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