銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 外へ通じる、巨大な両開きの扉が見えてきた。

 頑丈な造りのお陰か、少し形がひしゃげた程度で済んでいる。

 良かった、これなら通り抜けられそうだわ!

 全員出口を抜けた途端に、遠くから声が聞こえてきた。

「見つけた! ヴァニス王だ! 討ち取れ!」

「俺が先に見つけたんだぞ!」

「うるさい! 報酬は俺のものだ!」

 わあぁっという雄叫びと共に、兵士達が目の色を変えて大挙して押し寄せて来るのが見える。

 うわあ! また大人数が来やがった!

 この調子じゃ多分、無傷な兵士のほとんどがヴァニスを狙ってうろついているんだわ!

 あんのタヌキちょびン! 本当にろくな事しないわね!

「余の剣の腕を知ったうえでの狼藉か!?」

 ヴァニスが勇ましく叫び、腰の剣に手をかけた。

「ヴァニス王、まってください!」

 それを、イフリートの肩に乗ったノームが静止する。

「土の精霊よ、止め立ては無用だ!」

「いえ、まってください! ……しずくさん!」

「は、はいっ!?」

 突然に名前を呼ばれて、あたしは直立不動で返事をした。

「な、なんでしょう!?」

「意識をしゅうちゅうしてください!」

「え!? な、何に集中するの!?」

「水です!」

「水!? 水って……」

 あたしはグルッと周囲を見渡して水を探した。でも水なんて……

「どこにもないけど?」

「あります! 空気です!」

「……は?」

「空気のなかにある水分に、意識をしゅうちゅうしてください!」

 空気? そりゃ空気だったら、売るほどたんまりあるけど。
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