銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「心配していたのですよ、風の精霊。無事でなによりです」

 風の精霊を労う神様は、クマの浮き出た目でニコリと微笑んだ。

「来るのが遅くなって済まない。モネグロス」

「良いのです。私はこの通り、大事ありませんから……」

 いや、あるって。大事。
 ほらまた激しくゴホゴホ咳き込んでるし!

 あぁぁ、吐く? 吐くの? 大丈夫?
 ちょっと、どっかで横になった方がいいって!

「ね、ねぇ、風の精霊。この神様って、どこか病気なの?」

「知ってるだろう? この世界は今、神の力が衰えているんだ」

「いや、衰えてるっていうか……」

 なんか、衰えた神って言うより、もうすでに別物?
 神じゃないってこれ絶対。
 長屋のおとっつぁんだってば。

「病気の人間にしか見えないわ」

「人間ってのは、元々が神の映し身なんだ。似てて当然だろう」

「これに似てるって言われたら、正直ショックなんだけど」

「おい! 失礼だぞ神に向かって!」

「だ、だってぇ……」

「そ、そんな事より、アグアは何処にいるのですか?」

 砂漠の神が、風の精霊に震える手でしがみ付く。

「アグアは……私の愛しい君は何処にいるのです!?」

 心底具合悪そうなのに、目だけはキラキラと輝かせながら神様が叫んでいる。
 いとしい、きみ?

「確かに水の気配がしました! 私のアグアが戻って来てくれたのでしょう!?」

「……済まない」

 希望に満ちた表情の神様に、風の精霊が申し訳なさそうに答える。

「その水の気配ってのは、これだ」

 風の精霊が、あたしを指さした。

「こいつは雫という名の、水の力を継いだ異世界の人間なんだ」

 その指の動きを追って、あたしに移動した神様の目が、キョトンと丸くなった。
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