銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 アグアさんの両手が、砂を握り締める。

「う……う……」

 真っ黒な涙がキラリと光る。いつの間にか彼女の涙は、透明になっていた。

 澄んだ雫が、彼女の頬を幾筋も幾筋も流れては、真っ黒な汚れを洗い落とす。

「う……うぅ……」

 嗚咽が漏れる。

 涙が、ボタボタと砂の上に落ちて次々と吸い込まれていく。

 彼女は両腕で必死に砂を掻き集めた。

 一粒たりとも残さぬように。失わぬように。でも……。

「ううぅ! ううぅ―――!」

 もう……失われてしまったのだ。

 今さらどんなに掻き集めようと。どんなに透明な涙を流そうと。

 どんなに嗚咽を漏らそうと。どんなに悔やもうと。

 もうモネグロスは戻ってこない。

 なぜなら……

 なぜなら、自分がこの手で殺してしまったから!

 彼女は地に這いつくばり、滝のような涙を流し、砂を両腕に掻き抱く。

 意味不明な唸りを上げ、全身を発作のように打ち震わせ、砂に頬擦りをした。

 全身を荒れ狂う悲しみと、後悔と、懺悔に翻弄されながら。

「う……わあああぁぁ―――!!!」

 どれほど後悔しても取り返せない過ちに、彼女は血を吐くように絶叫し続けた。

「愛しているわ! 愛している! 愛している! モネグロス――!」

 でも、もう遅い。

 その待ちわびた言葉を、モネグロスは二度と聞く事はない。
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