銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 あたしは縋るようにジンを見たけれど、ジンは相変わらず番人を睨み据えたまま、チラリとも振り返らない。

「やってみろ! お前なら大丈夫だ!」

「でも……」

「やれ! できる! お前ならできる! 絶対に!」

 番人を睨むジンの険しい表情が、ほんの僅かに変化した。

「これでもオレは、お前を信じているんだぜ? だから、お前もオレの言葉を信じろよ」

 あたしは、炎の龍を従えた風の精霊の広く大きな背中を見つめた。

 ……。

 まったく。あんたはいつもいつも。

 やれ実体化を解けだの、虹の橋を作れだの、神の船を動かせだの。

 雨をとめろだの、さっさと走れだの。

 みんなを守れだのと。

 人に自分のツケを払わせようとしてるクセに、偉そうに命令してんじゃないわよ。

 あたしはゆっくり背筋を伸ばし、目を閉じて、感じた。

 あたし自身の水の力を。

 あたし自身ができる事、やりたいと望むことを。

 そして目を開け、再び見つめる。

 あたしに背中を向けるジンの姿を。
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