銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 そしてその表情は一変して引き締まる。

「番人! 消滅するのは世界じゃない! お前だ!」

 イフリートも胸を張り、番人に向かって高らかに叫ぶ。

「お前は道を外した! その報いを甘んじて受けるべし!」

―― ゴオオォォォ……!

 火災旋風が……いや、何匹もの巨大な炎の龍が、身を唸らせて動き出した。

 徐々に速度を増し、番人に向かって一斉に襲い掛かる。

 辺り一面に響く炎の咆哮は土を巻き上げ、草を燃やし、風と共に敵に向かって牙を剥く。

 炎の叫びに、ジンの叫びが混じった。

「消滅しろ! 始祖の神降臨の場と共に!」

 三本の石柱の遥か上空から、番人をひと飲みにするために炎の龍が飛び掛る。

 この極限において当の番人は、ピクリとも動かない。

 表情ひとつ変えず、微動だにせず、ただ真っ直ぐ前を見て立ち尽くしているだけ。

 もはやこれまでと、観念するしかないんだろう。

 ……番人。 永劫の孤独に耐え切れずに、道を外してしまったあなたの気持ちは理解できる気がする。

 でも、理解するのと納得するのは別のこと。

 この世界は始祖の神が自由にしていい物では……

―― ダンッ!!

 突然のその音によって、あたしの思考は急停止した。

 その音の正体は、おもむろに、番人が杖を地面に突き立てた音だった。

 ただ、それだけだった。

 ただ、それだけで……

 天が、変わった。

 空を覆う暗黒の雲全てが、炎の雲に変化した。

 上空が、天空が……炎の雲海となり、完全に埋め尽くされていた。
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