銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「ノ――ム―――――!!」

 あたしは悲鳴を上げ、無我夢中でノームに向かって手を差し伸べる。

「いやあぁぁぁ! ノーム! ノーム!」

「だめ!」

 相変わらず真っ直ぐ前を向いたままで、瞬きもしないノームの鋭い声が飛んだ。

「集中がきれたら……おさえきれなく、な……る」

「そんなこと言ったってノームあなた!」

「だいじょ、ぶ……まだ、しばらくの間は、おさえられ、る……」

「そんな事心配してるんじゃないわよ!」

 それ、血なんじゃないの!? あんたにとっての血液みたいなもんなんじゃないの!?

 だったら非常事態じゃないの! 体中から血が噴き出してるのよ!?

 そんな体でアグアさん守って、そしてあたし達を守って、さらに石の槍を押さえて、仕舞いに穴が塞ぐのを阻止して……。

「無茶よおぉっ!! やめてえぇ!!」

 あたしはノームの横顔に向かって叫んだ。

 眼球ひとつ動かす余裕も無く、ひたすら前だけを睨み据えるノームの横顔に。

「いいえ。やめ……ませ、ん。むりでも、むちゃでも……やらなければ……」

 やらなければ……

 アグアは番人に殺される。

 あたし達は奈落の底へ飲み込まれる。

 石の槍は、抵抗できないヴァニスを攻撃する。

 穴は塞がれ、あたし達は助からない。

 世界が……終わる。

 だからノームは満身創痍でも、今ここで一切の手を抜くわけにはいかない。
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