銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「番人―――――っ!!」

 あたしは遥か頭上の小さな穴に向かって、ノドも裂けよとばかりに叫んだ。

「今すぐ、今すぐバカな真似はやめなさい!!」

 頭を振り、髪振り乱し、気もふれんばかりに叫んだ。

「やめなきゃ末代までも祟ってやる―――!!」

 声の最後は、涙で掠れて奈落に消えていった。

「う……ああぁぁ……」

 そしてあたしは、再び自分の無力を思い知り、むせび泣く。

 なにも、なにもできない。

 あたしは、なんのためにここにいるの……?

「ジ……ン……」

 目の光が消えかけているノームが、ぽつりと……

「はや、く……おねがい……」

 そう、言った。

 早く行けと言っている。

 みんなを連れて、早く行けと。

 自分をこのまま置き去りにして、早く逃げろと言っている。

 半身を銀色に染め、力無くうな垂れるジンの銀色の髪が、ふわりと弱い風に揺れ始めた。

 そしてあたし達の足元から、風が吹く。

 ……待って。待ってお願い待って。

 嫌よ、こんなの嫌。置き去りなんて、見殺しなんて絶対に嫌。

 しかたない道理だって分かってる! 自分でも、ただの我が侭だって充分に知っている!

 でも嫌! 納得できない絶対できない!

「あたし達、親友でしょ!? ずっと一緒だって約束したじゃないの!」

 子どものように、みっともなく泣き喚くあたしに、ノームは横顔のままで言ってくれた。

「えぇ。もちろんずっとずっと一緒です」
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