銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「アグアさん! 逃げてえぇ―――!!」

 この化け物、まだ諦めていない!

 最後の生贄を、アグアさんを石柱に捧げるつもりだわ!

 このゾンビ! 始祖の神より何より、あんたが一番始末が悪いのよ!

 こんなに代償を払ったのに! こんなに大切なものばかりが失われてしまったのに!

 もう充分でしょう!? まだ満足できないの!? まだこれ以上奪うというの!?

 いいえ! 絶対にこれ以上の代償は払わない! これ以上、ビタ一文だって払うつもりは無いわ!

「絶対にアグアさんを生贄にはさせない!」

「クク……誰が、アグアが精霊の生贄だと言ったか?」

 ……。

 え?

「わたしはひと言も、アグアが生贄になるとは言っていない」

 番人は恍惚として、自分の体を触っている。

 破壊され、斬られた自分の傷のあちこちを、ウットリとした表情で。

 この表情は、いつも決まって始祖の神復活の話をする時の……。

 ……。

 ……まさか。


 神、人間、精霊。

 それぞれの中で、最も貴重で特別な命が生贄となる。

 番人は、始祖の神の眷属として生まれた。

 つまり……

 精霊。

 この世に神々が生まれる以前から、太古より世界を見守り続けた精霊だ。

 始祖の神唯一の精霊。この世界で、唯一無二の……精、霊……。


 あたしの全身から、ザアァッと血の気が引く音がした。
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