銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
最初の一滴
 三本の光の柱がどんどん細くなり、まるで極細の糸のようになって、やがて消滅した。

 夜のように暗い空には、ぶ厚い黒い雲がグルグルと不気味に渦巻いている。

 無気力にその様子を眺めていたあたしは、周囲の景色が、大きくゆっくりと回転し始めていることに気がついた。

 あまりの事態に自分が眩暈を起こしているのかと思ったけれど、違う。

 本当に景色が回転している。

 あたしを中心に、空が大地を巻き込みながら大きく回転しているんだ。

 空と草原の境目がボウッと霞んで、溶けた鉄のようにグニャリと歪んで、お互いがドロリと混じり合っていく。

 どこまでも続く草原が、どんどん空と一体化していた。

 もうこれは空でも無く、大地でも無い。空も、大地も、消滅してしまったんだ。

 これが、世界の消滅。

 大爆発のような天変地異が起きて、世界が粉々に砕け散るような状況を想像をしていたけれど、まったく違う。

 ……静かだった。

 ただ、存在していたものがそうで無くなる。それだけの事なんだ。

 あたしは淡々とした心で、世界が消滅していく様をじっと眺めていた。

 もう驚く事にも、恐れる事にも、怒る事にも、悲しむ事にも、疲れきってしまったから。

 何をしたところで、何も、変わらない。

 あたし達が世界の破滅のスイッチを入れてしまったのに、騒いだところで、滑稽でしかない。

 もう全てが終わるんだ。終わってしまえば全てが消え去る。

 悲しみも苦しみも消滅してしまうんだもの。お仕舞いになるのだもの。

 無意味だわ。無駄よ。

 なにもかも全部、意味なんてないわ。
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