銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 そして。

 あたしの目の前で、アグアさんが空に飲み込まれていった。

 空と大地に飲み込まれ、彼女はそれらと一体化する。

 声すら上げる間も無い、ほんの一瞬だった。

 あまりにも呆気ない、刹那の終焉。あれほど確かに存在していたものが、こんなに呆気なく終わるものなんだ。

 こんなにも簡単に、アグアさんはアグアさんでは無くなってしまった。

 あたしは無感動に、無表情に、まるで番人のように、アグアさんがアグアさんで無くなってしまった現実を、ただ納得して見ている。

 感情を揺らしたところで、なんにもならない。だって世界の全てがこれからそうなるのだから。

 もうすぐ、あたしも……。

 周囲は、もはや明確な色すら成さなかった。

 世界がみんな混在していく。渦巻き、溶けて、融合して、『そうでない』ものに変貌していく。

 そしていずれ、それすらも消滅し果てる。


 終わりだわ。終末。終焉。

 全ての終わり。

 終わる。

 終わる。

 終わる。

 終わ……

『雫……』

「……!」

 音すらも終わりかけたこの世界で、その声が、あたしの耳に届いた。

 その声が、色の消え去ったあたしの心に強い色彩を取り戻す。

「……ジンッ!!」

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