銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 世界の破滅を拒絶するために来たと思っていた。

 でも、そうじゃなかった。

 いいえ、たとえそうであったとしても、世界はもう、無いのだもの。

 あたしがなぜ、なんのためにここへ来たのかなんて、もうなんの意味も無いわ。

 なのに、あたしはなぜここに居るんだろう?

 この世界に来て何度自分に問うたか分からない言葉を、今ほど痛烈に思う事はない。

 あたしは、なぜ、ここに居るの?

 世界が、あなた達全員が消え去ってしまって、なぜあたしはここに居るのだろう?

 誰か答えて。お願い。

 どうか教えて。お願い助けて。

 この虚しさを救って。果てない暗黒のような虚無の心を、体を、救って。

 お願い、お願い、お願い。

 助けて。

 助けて……。


―― フワリ


 …………。

 え?



―― フワリ


 ……今。

 今、確かに……


―― フワリ フワリ


 驚いて周囲を見渡せば、漆黒の『無』だけがそこにあった。

 他には何ひとつ存在していない。

 でも、確かに、今。


 風が吹いた。

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