銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 あたしの髪。頬。唇。指。腕。足。

 そのすべてに風を感じる。確かに感じる。この風は……ジンの風!

 ジンの存在は消えてしまったのに、彼の風は、確かにここに有る!

 あたしの中に遺してくれたんだ。

 ああ! ジンの風が、あたしの中に有る!

 それをたしかに知った途端、空虚だったあたしの全てが満ちていく。

 爪の先、髪一本の先に至るまで、細胞全てが怒涛のごとく力強く満ちていく。

 何も無い空間の中で、はっきりと感じるジンの風。

 これほど確かなものがあるだろうか! これほど意義のある事があるだろうか!

 ……ようやく……ようやく今、本当に納得できた。

 なぜあたしがこの世界に来たのか。なぜ、今、ここにこうして居るのか。

 全てがやっと理解できた。全ての答えが確信できた。

『存在よ、答えなさい。あなたのそれは、なんですか?』

 これはね……涙よ。

 あたしの流す涙。

 あたしは、ジンと出会ったあの日の彼の言葉を、昨日の事のように覚えている。

『雫とは、乾いた大地に落ちる最初の一滴。そんな勇気と意味のある存在』なのだと。

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