銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「良かったですね。風の……いや、ジンよ」

「……」

「なかなか良い心持ちでしょう? 自分だけの名というのも」

「……」

「嬉しいですか? そうですか。良かったですね、ジン」

「うるさいな! 別に嬉しくなどない! 何かくすぐったいだけだ!」

「そうですか。くすぐったいですか。良かったですねぇ」

 ニコニコ頷くモネグロスと、その表情を見て逆にイライラしてるジン。

 なんだ、機嫌が悪いんじゃなくて、照れくさかったのね。

 ふふ……これで少しは、個別の名前の味わいってのを理解してもらえたかしら?

「お前も一緒になってニヤニヤ笑うな! ったく……ほら、行くぞ」

「どこへ?」

「お前が狂王の城へ行くと言い出したんだろうが!」

「いや、言ったは言ったけど」

 今これからすぐ行くの? 気が早いのね。

 まあ、善は急げというから、それがいいのかもしれないけど、でもどうやって?

「何度も言うけど、あたしは実体化を解けないわよ? あんた達みたいに自力で空は飛べないし、虹の滝の橋も、もう消えてしまったし」

 だからって、砂漠の中を延々歩いて旅するなんてのはご免被るわ。

 いくら水や風の力があるといっても、この砂漠の灼熱感はケタはずれなんだから。

 旅の終着地に到達する前に、人生が終着してしまう。

「モネグロス、船を出せるか?」
「ええ、大丈夫です」

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