銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「はい? 船?」

「神殿はだいぶ崩壊しましたが、船はまだ無傷です」

「そうか、それは幸運だったな。じゃあ船着場へ急ごう」

 ……船? 砂漠に船?

「雫、行くぞ」

「ちょ、ちょっと。船? 船って言った?」

「ああ、そうだ」

「こっちの世界じゃ、船は砂の上を走る乗り物なの?」

「そんなわけないだろう」

「じゃ、なんで船?」

「口で説明するのは厄介なんだ。とにかく行くぞ」

 ジンがそう言って、あたしの腕を引っ張った。

 また説明は後回しなの?
 こいつひょっとして、単に面倒くさがりな性格なだけなんじゃないかしら?

 三人揃って急ぎ足で神殿の中を進むと、静かで薄暗い建物の中に、あたしのヒールの音が甲高く反響した。

「うるさい履物だな。歩きにくそうだし」

「慣れよ、慣れ」

「なぜそんなに、踵が細く尖がっているのです? それは武器なのですか?」

「武……ま、まあ、状況によってはそうなり得るわね」

「そうか。力を持たない人間にとって、武器は重要だからな」

「履物と、護身の武器が同化しているのですね! なんと便利な物でしょう!」

「雫の世界の靴職人は合理的だな。たいした発想だ」

 ……妙な形で絶賛されてしまった。

 確かに普通に生活するのに、こんな高いヒールなんて別に必要ないんだし、こんなのジン達から見れば、ただの凶器なんだろうな。

 あたしは一瞬、自分が何でこんな高いヒールを履いているのか、分からなくなった。

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