銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「着いたぞ」

 広い神殿内を延々と歩いて、あたし達はようやく船着場に辿り着いた。

 船着場っていっても、ただっ広い空間に、水の代わりの大量の砂が敷き詰められているばかり。

 神殿外の砂漠と直通している場所に、たしかに船は置かれていた。

 おぉ、想像以上に立派な船ねぇ! あたし、こんなレトロで大きい木造船って初めて見た!

 砂の上に堂々と佇む大きな船を見上げれば、滑らかなフォルムの船底が、ずっとずーっと向こうまで続いてる。

 高々としたマストに張られている、横型や縦型の真っ白な帆が、いかにも『船!』って感じだ。

 帆があるって事は、やっぱり実用性があるのかしら。

 単に神様の儀式用とか、インテリアとかで置いてるわけじゃないのかな? でもオールは見当たらないけれど。

 そんな風にのんびり船体を観察していたら、「ほら、早く乗れ」ってジンに急かされて、あたしは船に乗り込んだ。

 乗ったは良いけれど……。

「で? これからどうするの?」

 砂地の上にデーンと居座り、微動だにしない船の上。

 まったく動かないじゃないの、やっぱり。

「どうすんのよ。何だか自分がすごく間抜けに見えるんだけど」

「ここからオレとお前の出番だ」

「え?」

「船を動かすのに必要な物は?」

「重油」

「……?」

「あ、ごめん。えーっと、水と風?」

「そうだ」

「あ……」

 水と風。
 あたしとジンだ。

「さあ、船を動かすぞ。お前の力を貸してくれ」

ジンは上機嫌でそう言った。
< 71 / 618 >

この作品をシェア

pagetop