銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 あたしの力を貸す?
 それって、後ろから船を押せって意味じゃないわよね?
 やっぱり水の力?

「簡単に言わないでよ。あたしは初心者なのよ?」

「さっきは、ちゃんと虹の橋を作れたろ?」

「そりゃそうだけど、あの時とはワケが違うわよ」

「同じ要領だ。大丈夫、船が覚えてる」

「船が覚えてる? なにを??」

「神達を乗せて走った時の記憶さ。呼び覚ましてやればいいんだ。船も水の仲間だから」

 船も水の仲間か。確かにそうね。

 でも船の記憶を呼び覚ませと言われても、逆に困るわ。どうしろってのよ。

 ヒザ突き合わせて、じっくり対話すればいいわけ? 木造船相手に?

 う~~ん……。

「無理」

「いいからやれ」

「無理だって~~」

「やってみろ。大丈夫だから」

 仕方なくあたしは、またパンパンと勢い良くかしわ手を打った。

 そして、心の中で熱心に語りかける。

 えぇっと……『もしもし船さん?』

 ……なんかちょっとバカらしく思えてきちゃった。まあ、いいわ。

『もしもし船さん。覚えていますか?あなたが海原を走った時のことを』

 真っ白な帆を張り、風を満面に受けた時のことを。

 モネグロスや、アグアさんや、眷族達を運んだ時のことを。

 皆があなたと共に、風を全身に浴び、髪を靡かせ進んだ姿を。

 思い出して下さい。

 そして再び、走って下さい。

 モネグロスとあたし達を乗せて、救いを求める、水の精霊アグアの元へ……。

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