【短】ねぇ、虎助
第一夜

 虎助(とらすけ)が硲(はがま)家に来たのは、私が12歳の時だった。

 お父様に紹介されたわけではなく、いつの間にか屋敷の中に居た。

 と言っても、まだ何も知らない子供の私に部下を紹介してくれたことは一度だってなかったけれど、虎助は他の部下とは異色の存在だった。

 お父様が「トラ、」と呼ぶと、音もなく直ぐに現れた。

 いつでも、どんなときでも。

 お父様が虎助に耳打ちをすると、またすぐに居なくなる。

 普段から屋敷の中にいるらしいが、お父様が呼ぶ以外に会ったことがない。

 たまに私が「トラ、」と呼んでも、庭の木が僅かにざわめくだけだった。



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