【短】ねぇ、虎助


 今年初めての雪が降った日。

 私は月を仰いだ。

 貴方を想って。

 吐く息は白く、名残惜しくも冷えた空気に溶けてしまう。

 ガサリ、と、何かが小さく鳴いた。

 塀の上を、何かが走る。

 私は一瞬であの日を思い出していた。

 最も忘れたこともなかったが。

 しかし、あの日とは何かが違っていた。

 月に雲が掛かる。

 星が、潜んだ。

 身体に緊張が走る。

 それは本能だったのか。

 虎助ではない!

 そう思った瞬間、目の前に一人の男が現れていた。

 闇に紛れて。

 虎助と似た装束。

 頭巾で顔を覆っている。

 頭巾の隙間から見える目をギロリ剥いて、私に迫る。

 殺意。

 背中が凍る。



 虎助―――ッ!



 心の中で叫んだ。
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