【短】ねぇ、虎助

 恐怖で、目を瞑った。




「……、」


 しかし、何も起こらなかった。

 恐る恐る目を開けると、そこには、黒い羽織の小さな背中があった。

 私はその背中から目が離せなくて、その後、さっきの男がどうなったのか全くわからない。


「曲者だ!」


 張りのある声が響く。

 虎助だ。

 虎助だ。

 虎助がこちらを向く。


「お怪我は」


 私は小さく、震えるように首を横に振った。

 辺りが騒がしくなる。

 虎助がまた行ってしまう。

 私は、また虎助の羽織を捕まえた。


「行かないで」
「……、」
「お願い」


 身体中が震えていた。

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