チョコレート化学実験。
危険だ。
ものすごく危険だ。
絶対、バレてはダメだ。
先輩に気付かれては、ダメだ。
落ち着け、落ち着け私、と羽菜は思い切り深呼吸する。
落ち着け。
落ち着け。
なんとかここを切り抜けないと。
羽菜はどうにかしようと意味もなくカバンの中をあさり続ける。
と、
目の端に、先ほどの板チョコが目に入った。
落ち付くためには…糖分摂取…っ!
羽菜は少し遠い位置にいる先輩に背を向けたままこっそり板チョコにかじりついた。
ふわりとビターな風味が口いっぱいに広がる。
美味しい。
うん。…少し落ち着いた。
喉の奥から全身に糖分が駆け巡る。
痛いぐらいに舌を刺激する暴力的な甘さに、羽菜はこの時ばかりは感謝した。
「あ、やっぱりチョコか。」
え、と目を見開く羽菜の肩に、離れた場所に居たはずの、先輩の大きい掌が乗る。
ゆっくり振り向いた羽菜の目には、クイズに正解でもしたかのように喜んでいる先輩の微笑んだ口元があった。