チョコレート化学実験。
「す、すみませんでした。」
羽菜は思わず頭を下げた。
バレンタインのチョコレートをこっそり、そして無理やり食べさせた事がバレてしまったのだ。なんだか色んなものをひっくるめて、一目散に逃げ出してしまいたい。
そんな羽菜を先輩が意味深げに見下ろす。
「時に、羽菜。」
「…はい。」
「チョコ、どれぐらい入れたんだ?」
「…ミルク200㏄に対し、ひとかけらです。」
あの…、それがなにか。と、羽菜が顔を上げたその時。
「…足りないな。」
「え、、」
くいっとアゴを指で掴まれ。
ペロリと口元に付いたチョコを舐めとられた。
「…っ……」
え?
え?!
「うん、うまいな。」
顔をひたすら白黒させる羽菜に、新田先輩はニヤリと微笑む。
「な…え…ど…」
なんで、え?どういう…という言葉一つまともに発音出来ず、羽菜は固まったまま動けなかった。
「…訳が、分からないか?」
新田先輩が優しく微笑んだまま、ゆっくりと首を傾ける。
羽菜は内心パニックになりながら、つられるようにおずおずと頷いた。
「そうだな。んー…。たとえば。俺が下の名前で呼んでいる女子は、羽菜だけ。」
先輩は羽菜の耳元に、じわりと唇を近付ける。
「今日も、色々理由を付けて他の部員に帰ってもらった。後、三年前からこの日の贈り物は誰からも貰っていない。ああ、母と妹からは貰ってるが。貰いたい人がいるんだ、その人からは今日まで中々貰えなかったけど。どういう意味か、…分かるか?」
どういう…
意味か…。…⁈
羽菜は戸惑いながらも、カクカクと頷いた。
とりあえず、この距離の近さに、生命の危機を感じる。
顔を真っ赤にしながら一歩後ずさる羽菜に、新田先輩は嬉しそうに微笑んだ。
「ホワイトデーは三倍返しだから、覚悟しておいてくれ。」
先輩はそう言って、羽菜の手を逃がさないとばかりに優しく、でもちょっと強引に引っ張った。
【Fin】