チョコレート化学実験。
それならばこちらにも考えがあります。
化学部の扉をまた叩いて早11ヶ月。
自分を包むものはセーラー服からブレザーへ。
グラウンド分あった距離は、理科室の机分まで縮まった。
呼ばれ方も、蓮田から羽菜へ昇格だってした。
ついでに数少ない他の部員は、雪の予報も手伝って見事に皆サボリ。
この期を逃せば、もう一生渡せそうにもない。
…あの時。
とても悲しかった。
先輩をじっと待って、バッッと渡してバッッと帰る予定が、いきなり先輩を見つけて、…まさか渡す前にあんな形で玉砕するとは。
その時は思った。
あの人と同じように、受け取るぐらいいいのにって。
でも。
もし先輩が受けとってくれていたら。
先輩は律儀に返すのだろう。
もしかしたら世間の『ホワイトディは三倍返し』なんていうのを真に受けて本当に三倍返ししてくるのかもしれない。
でも、そんな事されたら。
期待、してしまう。
1㎜でも、一瞬でも、期待してしまうから。
あぁ、だから先輩は受け取らないんだなと思った。
どこまでも、律儀で不器用な、変な人。
羽菜はアルコールランプの火を付けた。