チョコレート化学実験。
ビーカーに牛乳を入れ、アルコールランプにセットする。
優しい炎が赤や青に揺れている。
先輩から充分離れた理科室の隅で、羽菜はそれを静かに見ていた。
…本当は渡したいのだ。
捨て身になって、綺麗にラッピングした、可愛い可愛いチョコレートを。
でも、それは先輩の負担になるから。
先輩の困った、戸惑った顔を見たくないから。
羽菜は沸騰直前のミルクを火から下ろし、自分のカバンからそーっと板チョコを一枚取り出して、静かにパキンと割る。
ひとかけら、ビーカーにポチャンと入れ、ガラス棒でゆっくりとかき混ぜた。
ドキン、ドキン、と心臓が時を刻む。
バレないように。
気付かれないように。
毒を仕込むようにそっと。